一般的に穀粒判定器は、秋の収穫期にしか使用されないため、収穫後は翌年まで放置されているケースも珍しくない。栃木県食糧集荷協同組合の特筆すべき点は、検査機器という用途にしばられることなく、検査時に取得したデータを生産者にフィードバックし、改善の余地がある項目については、栽培技術や管理法などを指導して、品質の向上をはかっていることだ。
「令和2年から導入したケツト科学研究所の穀粒判定器『RN-700』では、コメの外観に関する検査結果が取得できます。例えば、『胴割粒』の数値が高い場合は、乾燥機による乾燥の仕方に問題があるからひび割れてしまう。コメの水分が蒸発して乾燥し過ぎないように、送風して水分ムラを軽減し、ゆっくり乾燥してもらうといったアドバイスを行っています。また、乳白粒や心白粒など『白未熟粒』の数値が高い場合は、近年問題になっている温暖化現象の影響による高温障害が疑われるので、落水時期の見直しなどを指導します」 (栃木県食糧集荷協同組合副理事長 関本幸一さん)
また、同組合では、成分分析計『AN-820』も導入。穀粒判定器と同様、こちらの計測データも営農支援に活用している。
「『蛋白』の数値が高い場合は、土壌の窒素量が増えていることを示しています。稲穂に栄養が行き渡らなくなり食味が落ちるから、刈り取り直前に肥料を与えてはいけない、といった指導につながります」
こうした営農指導が同組合において実施されるようになった背景には、県やJAの営農指導員の人材不足も無縁とは言えない。
「私たちの組合では、生産者からのコメの集荷を集荷事業者に委託しています。これらの事業者は肥料や農薬の資材を販売していることもあり、栽培技術や生育に関する知識も豊富です。仕入れるコメの品質は集荷業者の売り上げにも影響しますから、生産者に改善策をフィードバックすることは当然のこと。県やJAの営農指導員が減少している代わりに、このサポートが結果的に営農支援になっているわけですね。そのため、集荷事業者に対して計測器の使い方を指導する研修会では、計測データの活用法も伝授。数値データに裏打ちされた指導は説得力がありますから、生産者の納得感も違います」
このような取り組みの結果、令和3年産米検査において、同組合が取り扱う『全集安心米』のほとんどが1等と格付けされた。もっとも生産量の多いコシヒカリにおいては、検査を実施した296tのうち、99.8%が1等米である。
食生活の変化による米の消費量の落ち込みや、*コロナウイルスの感染拡大による外食需要減で在庫が増え、的に米価が下落しているのは周知の事実。このような状況下でも同組合が取り扱う米は上々の価格で完売している(2021年11月現在)。
「こうした取り組みを進めているのは、ひとえに、安心・安全なお米を消費者に届けたい、その一言に尽きますね。自信を持って販売するためには、細やかな品質管理が必要となる。その裏付けとして、測定器のデータを活用しているのです」
高精度の検査・鑑定を行うための機器だからこそ、その測定データを営農指導に活用しない手はない。測定器の新たな活用法、ぜひ検討していただきたい。